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中村元選集第15,16巻『原始仏教の思想Ⅰ、Ⅱ』概要と感想~最初期の仏教を思想面で見ていく参考書
今回ご紹介するのは1993年に春秋社より発行された中村元著『中村元選集〔決定版〕第15巻 原始仏教の思想Ⅰ』と、1994年発行の『中村元選集〔決定版〕第16巻 原始仏教の思想Ⅱ』です。
早速この本について見ていきましょう。
仏教聖典の最古層に示される思想を原典批判研究によって解明し、原典をして語らしめ、歴史的人物としてのゴータマ・ブッダの思想に肉薄する。(『原始仏教の思想Ⅰ』)
雑然とした思想の断片が精緻な体系へと発展していく。意外な発見に満ちたその経過を原典批判研究によって明らかにする。仏教思想体系化への歩み。(『原始仏教の思想Ⅱ』)
Amazon商品紹介ページより
これまで当ブログでは『ゴータマ・ブッダ』、『仏弟子の生涯』、『原始仏教の成立』など、仏教学者中村元先生が原始仏教成立の時代背景を解説した作品を読んできましたが、今作『原始仏教の思想』はいよいよその思想面に突入した解説書になります。
その分量はなんと二冊合わせておよそ1800ページという驚異の大ボリュームです。
仏教の入門書としては正直おすすめすることはできませんが、原始仏教についてより深く学ぶには非常におすすめな作品です。
この本は原始仏教における思想を原典に即して見ていくところにその特徴があります。最初期の仏教教団はどのようなことを説いていたのか、そしてどのように思想が発展、体系化されていったのかを原典を読みながら解説していきます。原典の引用がとにかく膨大です。だからこその大ボリュームです。
紹介したい箇所がそれこそ山ほどあるのですがその中でも特に印象に残った箇所を紹介します。
仏教の社会的立場は、当時のインドとしては革命的なものであった。それは大衆に説教するという態度をとったからである。自分一人の理解に満足せず、万人が理解するということをめざしたからである。ウパニシャッドは深い哲理を寓していたにもかかわらず、その秘密の教義は自分の長子または信頼し得る弟子にのみ伝えることにしていた。ところが、仏教では隠すということがない。日月が万人を照らすように、万人に伝えるのである。教師はなんらかの教理を握り拳のうちに隠すこと(ācari-yamuṭṭhi)がないのである。
春秋社、中村元、『中村元選集〔決定版〕第16巻 原始仏教の思想Ⅱ』P73
「仏教の社会的立場は、当時のインドとしては革命的なものであった。それは大衆に説教するという態度をとったからである」
ブッダが説法をするというのは私たちにとっては当たり前のことのように思えてしまうかもしれませんが、当時のインド社会においてはそもそも大衆に説法をしたということ自体が革命的だったというのは驚きですよね。
だからこそ梵天勧請という伝説が語られたり、この本で語られる様々な「ブッダのことば」があるのだなということを実感しました。
そしてもうひとつ、次の解説も印象的でした。
東アジアの仏教では「信仰」ということばを使わなかった。もっぱら「信心」という語を使った。そのわけは、西アジアや西洋の宗教であると他者指向的であり、他者である神を仰ぐから「信仰」という訳語が適合する。ところが仏教によるとみずからの心にわが心を向ける、「廻向」することであり、さとりの心と一つになることである。だから「信心」という語がぴったりとする。
春秋社、中村元、『中村元選集〔決定版〕第16巻 原始仏教の思想Ⅱ』P184
浄土真宗において特に重要視される「信心」という言葉。浄土真宗は一見「阿弥陀仏」に絶対的に帰依する信仰のように思えてしまいますが、やはり「信心」という言葉を大切にする意味がここにあったのです。浄土真宗も自分の外の存在を信仰するのではなく、あくまで自己の心と向き合う「信心」の仏教なのです。
原始仏教の思想とのつながりに私は改めて目が開かれるような思いでした。
この作品は日本仏教を考える上でも非常に有益な内容が説かれています。やはり比べてみて初めてわかることもあります。
思想面にフォーカスしてがっちり説かれるこの本は読みごたえ抜群の名著です。入門書としては厳しいですがより深く原始仏教を学ぶにはとてもおすすめな作品です。
以上、「中村元選集第15,16巻『原始仏教の思想Ⅰ、Ⅱ』~最初期の仏教を思想面で見ていく参考書」でした。
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